☆ミュージカル『モーニング・タウン』(2)

前から3列目で感動的な体験をした私は、千秋楽前日に思い切ってもう一度出かけました。
今回の私の席は前から4列目。またもや舞台の向かって右側。この幸運に感謝の気持ちで
いっぱいでしたが、いざ座ってみると、前回からたった1列後ろへ下がっただけなのに舞台
から遠のいたという印象が強くて何だかがっかり。贅沢な話ですよね(^^;
2回目ということもあり、ずいぶん冷静な目で観てしまい、1回目では気づかなかった細かい
点まで見えるようになった反面、物語にのめり込めなくなっていました。
楽しむために観るというより、このレポートを書くために観ていた・・・そんな気がします。
もっとも、2回観るに堪えない、という意味ではありません。何度DVDを観返したことでしょう。
私は今でもこのミュージカルが紺野さんの最高傑作だと信じて疑いません。


第一部 『行け!夢ヶ丘商店街』
1回目を観たあと、あちこちで第一部に出演しているメンバーは集中力がない、という意見を
聞いて「あれ?」と思いました。確かに、私が観たときもセリフが出てこない、といったミスが
ありましたが、みんな想像していた以上にうまく演じていて感激したものです。
といっても、私が最初に観たのは1ヵ月に及ぶ長い公演のまだほんの序盤の頃。毎日同じ
ことを繰り返しているうちに疲労が溜まり、ついついうっかりミスを重ねてしまうのかな・・・と、
否定的な意見を聞くたびに考えていました。
確かに疲れが溜まっていたのかもしれません。集中力が途切れがちだったのも否めません。
でもそれは、彼女たち出演者がアドリブで笑わせようとしていたのが最大の原因のようです。
後半になると、私が再び観に来たように、何度も足を運んでいる観客も少なくないはず。
笑いを誘う場面でも、それがシナリオどおりなら笑えなくなるのも無理はありません。
それならアドリブで笑わせてやろう・・・彼女たちはそう考えたのではないでしょうか。
実際、コメディリリーフの加護ちゃんはアドリブで何度も笑いをとっていましたし、安倍さんの
お父さんを演じる長江健次さんは、家で新聞を広げている場面でワールドカップの試合の
結果を独り言としてつぶやき、観客がどよめくさまを楽しんでいるようでした(ひょっとすると、
これはもはやお約束の演出になっていたのかもしれません)。銀行マンのトオルちゃんまで
アドリブに挑戦。動揺してそのあと何か間違えたらしく、安倍さんが「落ち着いて」とフォロー
していました。

誰がどんなアドリブを見せてくれるのか、観客ばかりでなく、他の共演者たちもわからない
ので、アドリブのせいで本来のセリフが途切れたり、飛んでしまったりすることもしばしば。
多くの観客はミスには寛大で、間違えても笑ってくれるので出演者もすぐにリラックス。
でもリラックスし過ぎて演技に集中できなくなっちゃうのは困りものです。
本来あるべきセリフがカットされて、意図していた演出が楽しめなくなってしまうようでは、
初めて観る人を置き去りにしていると解釈されても仕方がありません。
厳しいことばかり書いてしまいましたが、アドリブのおかげで初めて観たときとは違う面白さ
を味わえたことも事実。素直にアドリブを楽しむ姿勢がいちばん正しいのでしょうね。

余談になりますが、モンブランはその形が山に似ていることからそう呼ばれているとか。
モンブランとはフランス語で「白い山」という意味。ブランが「白い」を表しています。
例えば、ホワイト・クリスマスはフランス語でノエル・ブラン(Noёl blanc)。
あの「あんブラン」、フランス語だと「白あん」という意味になっちゃいますね。
まあ、こんなこと考える人はほとんどいないでしょうけど(^^;


第二部 『時給720円!青春見習い中』
アドリブで新しい面白さを模索している第一部と比較すると、第二部はかなり保守的。
保田さんや出番の少ない矢口さんは、オーバーな演技でインパクトを与えようと努めている
ようでしたが、アドリブはほとんど見当たらず、「規定の演技をいかにうまくこなすか」を追求
しているかのよう。それだけに安心して観ることができ、紺野さんたち出演者のほぼ完璧な
演技を再び堪能することができました。日々精進しなければあの完成度の高さを維持する
ことはできないはず。ほとんどセリフを噛むこともなく、噛んだとしても戸惑いを表現している
かのように見えて、違和感なく楽しめました。そもそもこの物語は、ほとんどの人物にとって
戸惑いの連続ですし(^^)

紺野さんの演技はあいかわらず完璧。誰よりもセリフが多いのに、長いセリフも完璧に自分
のものにしている、という印象を受けました。歌だけは完璧とは言えないかもしれませんが、
懸命に歌う姿はいかにも紺野さんらしくて、初めて観たときの感動を呼び覚ましてくれます。
2回目だけに淡々と観ていたのですが、紺野さんのひたむきな演技に胸を打たれ、またもや
涙ぐんでしまいました(^^;

紺野さんがほとんど出づっぱりだけに、お気に入りのシーンはたくさんありますが、特に強く
印象に残っているのが、「完璧、完璧って、全然完璧じゃないくせに!」と八つ当たりする
後藤主任に「頑張ってる自分をもっとほめてあげなきゃ。だって誰もほめてくれないんだもん。
自分で完璧だって言ってあげないと」と答えるシーン(残念ながら、私の記憶力は紺野さん
ほどではないので、ここに書いたセリフは完璧じゃないかもしれません)。
紺野さんの名セリフ「完璧です!」は、自分で自分を励ますための言葉だったのですね。
ご存知のとおり、これはコンサートのMCなどで繰り返し口にしていたセリフ。
あらかじめ用意されていたシナリオどおりのセリフではあるけれど、何となく、つんく♂さんが
いつも健気な紺野さんにプレゼントした、とっておきの言葉のような気がします。

それから、後藤さんと紺野さんのデュエット、紺野さんのソロ、そして紺野さんを追いながら
歌う後藤さんの切ない歌・・・この一連のシーンは、最大の見どころ、聴きどころ。
シンプルながら効果的な演出で2人の演技と歌を際立たせているこれらのシーンは、涙なし
には語れません(^^)
特に後藤さんの歌『答えて欲しいんだ』は、初めて聴いたときはかなり衝撃的でした。
この歌を口ずさむ紺野さんのファン(特に男性ファン)が増えそうな気がするのは、私の思い
過ごしでしょうか。

物語そのものは平凡ですが、前半はコミカルな演出で笑わせて、後半はシリアスな演技で
(紺野さんのファンを)ほろりとさせる一粒で2度おいしいミュージカル。
本音を言うと、紺野さんと後藤主任の心の機微を、もう少し丁寧に描いてほしかったのです
が・・・1時間5分という限られた時間の中ではやむをえないでしょうね。
あまり目立たなかった辻ちゃんや小川さんの出番も増やして、2時間くらいかけてじっくりと
見せてくれたらそれこそ完璧なのに・・・。

2回目に観たときは、紺野さんだけでなくほとんど全員が、幕が完全に下りるまで手を振り
続けていました。前回は紺野さんに見とれていて気づかなかっただけかもしれませんが、
他の出演者たちが紺野さんを見習ってそうするようになったのだとすれば、とっても素敵な
ことですよね。
ひょっとしたら、何事にも一生懸命な紺野さんがいつの間にか周囲の人々の心を動かして
いく・・・というこの物語は、幕が下りてもまだまだ続いているのではないでしょうか。
ふと、そんなふうに思いました。


第三部 ミニライブ
さて、待望のミニライブ。
前回は紺野さんに見つめられて、にっこりと微笑んでもらえたという幸運に恵まれただけに、
今回もまたこっちを見てくれないかな・・・とついつい欲張ってしまい、せっせと持参した紺野
さんのうちわを掲げてアピールしちゃいました。
でも、うちわの効果はイマイチ。紺野さんはどうやら、最前列のお客さんに気をとられている
様子でした。
右側にいることを喜んでいた私ですが、実はライブでは左側のほうが圧倒的に有利だった
ことが発覚。紺野さんはMCや退場のときに左側に立ち、その前にいたファンの応援に満面
の笑顔で応えていましたが、右側では曲の最中に視線を投げかけるのが精一杯なのです。
前から4列目ですから、間近で歌い踊る紺野さんを見ることができるというのに、何となく、
ずっと遠くにいるような気がして、うちわを持つ手はいつの間にか下がりっぱなしに。
そして私は、紺野さんが楽しそうに踊っているというのに、それを素直に楽しむことができず
にいる自分に気がついて愕然としました。
紺野さんの注目を浴びようとするあまり、私は楽しむことを忘れていたのです。

とはいうものの、紺野さんはこちらのうちわに気づいてくれたようで、何度かこちらのほうを
見ていましたし、うちわが見えなくなると「あれ、どこだったっけ?」と探しているようでした。
そして『そうだ! We're ALIVE』が終わって右側から離れるときに、紺野さんは私を見つけて
手を振り、小さく会釈するようにうなずいてくれました。
でも、私は紺野さんに見られていると思うと、何だかとっても恥ずかしくなってしまいました。
もちろん、このときばかりはうれしくて、私も思いっきり手を振って応えましたけれど(^^)

もっと素直に楽しめばよかった・・・と、今では後悔しています。
こんな失敗をすることがないよう、みなさんがライブに行ったときは(周囲に迷惑をかけない
程度に)羽目を外して、めいっぱい楽しんでください。どうせ後悔するなら、楽しんでから後悔
したほうがお得です(^^)


その翌日、ミュージカル『モーニング・タウン』は千秋楽を迎えました。
最後の最後まで、紺野さんは完璧に演じていたようですが、全てが終わって、さぞかしホッと
したことでしょう。
時間が経てばさすがの紺野さんもセリフを忘れてしまうかもしれませんが、このミュージカル
で経験したことは心や体に染み込んでいて、必ずプラスとなって活かされていくことでしょう。